サカナカラ | For Fried Fish Fans

魚の唐揚げの三役 メヒカリカラ

メヒカリ

魚の唐揚げで番付表を作るなら、メヒカリは三役には入るだろう。

居酒屋メニューとしての普及度はフグをはるかに凌駕しているのでは。

アオメエソ、メヒカリ、メヒカリの唐揚げ

メヒカリの正式名称は、アオメエソである。

ただ、日常的な呼び名としては、ほぼメヒカリだろう。深海で目が青緑色に光って見えるらしい。

しかも、魚名単体というより、

メヒカリの唐揚げ

として覚えられていることが多い。

これは、ホッケの干物に少し似ている。

ホッケという魚そのものより、
「ホッケの干物」という料理の姿で記憶される。

メヒカリもまた、魚名と調理法がかなり強く結びついた魚だと思う。

ちなみに英語でも “Mehikari” と表記される例があるようだ。

魚の名前というより、すでに小さなブランド名に近い。

深海魚にして居酒屋の常連

メヒカリは深海性の魚である。

調査した資料では、福島の常磐沖などでは水深150〜450mほどの深い海域で、底曳網漁によって水揚げされると説明されていた。

深海魚と聞くと、少し特別な魚を想像する。
脂が強く、顔貌にも特徴がある。アンコウのイメージ。

だが、メヒカリの唐揚げは違う。

小ぶりで、軽くて、つまみっぽい。生でよくよく見れば深海魚の趣きもあるが、揚げてしまえばごく普通の魚の姿形だ。

深海魚でも普通。大衆感覚を損なわない。

福島県いわき市では「市の魚」にも指定されている。
市民アンケートで、カツオやサンマを抑えて選ばれたという。

単に珍しい魚ではなく、地域の食卓や記憶に入り込んだ魚だということだろう。

漁獲量で見ると、全国メジャー魚ではない

メヒカリは、サバやアジのような全国メジャー魚ではない。

前述の福島の他、宮崎、岩手、愛知など太平洋側の特定地域でまとまって獲れ、そこで食文化化してきた魚である。

1990年代以降に広がった「近代魚」

もう一つ興味深いのはメヒカリの広がり方である。

モータートロール船の普及した1990年代以降に、メヒカリの消費が広がったという。

メヒカリは、古くから全国で食べ継がれてきた古典魚というより、
近代的な漁業、冷凍流通、地域PR、居酒屋文化、学校給食などと一緒に広がった魚に見える。

なぜ、ここまで唐揚げなのか

小魚を丸ごと揚げるとき、問題になるのは骨と身のバランスである。

骨まで食べられるようにしようとすると、揚げ時間が長くなる。
しかし揚げ時間を長くすると、身はパサつく。

メヒカリは、骨が細く柔らかい。
そのため、骨を食べやすくするために、極端な長時間加熱をしなくてもよい。

かつちょうど良い肉の厚みがある。

これは丸揚げにおいて、かなり大きな武器である。

骨が柔らかいから、短めの揚げでも食べやすい。
短めに揚げられるから、身の水分が残る。
身の水分が残るから、小魚なのにジューシーに感じる。

メヒカリの唐揚げは、

骨ごと食べられる軽さと、
白身魚としてのふっくら感

を両立している。

煮魚ではなく、唐揚げで見つかった魚

メヒカリは、煮魚として強く語られる魚ではない。
干物もあるし、焼き魚でももちろんいけるだろう。甘露煮は美味しそうだ。

ただし、やはり印象としては唐揚げが強い。

メヒカリのように身が柔らかい魚は、煮詰める過程で崩れやすいはずだ。

一方で、油はその弱さを包み込む。

衣が身を守り、
高温の油が骨やヒレを香ばしくし、
内側には白身の水分が残る。

メヒカリは、油によって発見された魚なのかもしれない。

頭を取るか、取らないか

メヒカリの唐揚げには、頭を取る派と取らない派がある。

ここは、軽く論争になるところだ。

頭と内臓を取って揚げると、苦味や雑味が減り、身のふっくら感を素直に楽しみやすい。
一方で、頭を残して丸ごと揚げると、香ばしさや「一尾まるごと食べる」楽しさが出る。

つまり、どちらかが正解というより、
食べ方の好みと、店の設計の違いである。

頭付きは、魚らしさが残る。
頭なしは、つまみとして食べやすい。

この小さな分岐にも、メヒカリ唐揚げの面白さがある。

学校給食に入るサカナカラ

メヒカリの唐揚げは、学校給食にも使われているという。

骨ごと食べられる魚は、給食との相性がよい。
切り身魚のように骨を気にしすぎる必要がなく、丸ごと魚を食べる経験にもなる。

地域の魚を、唐揚げという形で子どもに食べさせる。
これは、魚食文化としてかなり強い。

サカナカラは、単なる居酒屋のつまみではない。
地域の魚を、家庭や給食に接続する形式でもある。

メヒカリは、その好例に見える。

メヒカリは、近代のサカナカラである

メヒカリは、古典的な高級魚ではない。

深海にいて、
小さくて、
身が柔らかくて、
骨が細い。

だが、底曳網漁、冷凍流通、地域PR、居酒屋、学校給食と結びつくことで、
「唐揚げの魚」として存在感を持つようになった。

魚そのものが有名になったというより、
揚げた料理として有名になった。

メヒカリは、油によって見つけられた魚なのかもしれない。

そしてそれは、サカナカラにとってかなり重要な発見である。


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