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アジはなぜフライが主流になったのか?

アジ

アジフライは不思議な料理である。

洋食でありながら、日本では当たり前に存在する。
しかし同じような料理は、海外ではあまり見かけないようにも思える。

なぜこの料理が生まれ、なぜここまで広がったのか。

フライとは何か——日本における前提

まず整理しておきたいのは、日本における「フライ」という言葉の意味である。

日本でフライと言えば、多くの場合

・パン粉を使う
・油で揚げる(あるいは揚げ焼き)

という調理法を指すことが多い。

これは明治以降に入ってきた西洋料理、特にカツレツの技法が定着したものと考えられる。

一方、海外でのフライは必ずしもパン粉を前提としない。
衣液(バッター)で揚げる料理も広く「フライ」と呼ばれる。

つまり

フライという言葉自体は共通でも、調理の中身はかなり異なる

ように見える。

パン粉と魚——日本的な組み合わせ

パン粉を使った揚げ物自体は海外にも存在する。
ただし、日本のパン粉は軽く粗く、食感を強く出すための素材として発展している。

さらに、日本では

・魚を開いて
・パン粉をつけて
・揚げる

という調理が一般化している。

この「開き+パン粉+揚げ」は、少なくとも世界的には一般的とは言いにくい。

アジフライは

洋食技術を取り入れつつ、日本の加工と素材の扱い方の中で成立した料理

と捉えることができそうだ。

アジという魚の位置づけ

アジは日本で広く流通する魚だが、
漁獲は西日本に偏っているとされる。

長崎などが主要な産地であり、いわゆる全国均一の魚ではない。

一方でアジフライは、地域を問わず見かける。

このことから

アジフライは産地料理というより、流通と加工によって広がった料理

と考える方が自然に思える。

また、長崎(松浦・五島)などは「アジフライの聖地」として知られるが、
明確な発祥店は確認されていない。

つまり

名物化はしているが、起源は特定できない

という性質を持っている。

なぜ唐揚げではなくフライなのか

同じ揚げ物でも、アジは唐揚げではなくフライが主流となっている。

ここには、魚の構造が関係している可能性がある。

まずサイズである。

小アジであれば丸揚げも可能だが、
一般的なアジは中型で骨も強く、丸ごとの唐揚げはやや食べにくい。

では切り身にするかというと、今度は身の薄さが問題になる。

アジを開くと身は比較的薄くなり、

火が入りすぎやすい

という特徴があるように感じられる。

ここでフライの技法が機能している可能性がある。

パン粉と衣で覆うことで

・火の入りが穏やかになる
・水分の抜け方が緩やかになる

結果として

薄い魚でも比較的安定して仕上がる

と考えることもできる。

これは現時点では仮説だが、
唐揚げとの違いを説明する一つの筋の通った見方ではある。

仮説:洋食屋ブーム × 大衆魚

ここまでの事実を踏まえると、次のような仮説が立てられる。

明治以降、カツレツに代表されるパン粉揚げの技術が日本に入り、
それが大衆化していく中で、安価で流通しやすいアジが素材として選ばれた。

構造としては

トンカツやコロッケの魚版

と捉えることもできる。

さらに重要なのはボリュームである。

パン粉をまとわせることで

・見た目の大きさ
・食べ応え

が増す。

これはごはんのおかずとして重要な要素であり、
特に学校給食や食堂といった場面では受け入れられやすかった可能性がある。

つまり

コストに対して満足感を高める料理として広がった

と考えることもできる。

ただし、この点については一次資料による明確な裏付けは限られており、
現時点では

複数の事実から導かれる有力な仮説

と位置付けるのが妥当だろう。

まとめ

アジフライは

・洋食としてのパン粉揚げ技術
・アジという大衆魚
・流通と加工
・食事としてのボリューム要求

が重なって成立した料理であるように見える。

そしてその過程で

唐揚げではなくフライが選ばれ続けてきた

と考えることができる。

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