日本の魚料理といえば、まず思い浮かぶのは刺身。
あるいは焼き魚。
この二つが長く主役だった。
では揚げ物はどうだろうか。
もちろん天ぷらはある。
しかも江戸の天ぷらは、穴子や小魚、海老など魚介中心の料理だったことが記録にも残っている。
つまり、日本に魚の揚げ物がなかったわけではない。
それでも、刺身や焼き魚に比べると、魚の揚げ物は少し脇役に見える。
なぜだろうか。
それを考えるには、まず魚という食材の特徴から出発するのがわかりやすい。
魚には大きく三つの特徴がある。
鮮度、骨、水分である。
刺身は鮮度の料理
魚は傷みやすい。
そのため魚料理の歴史は、鮮度との戦いでもあった。
刺身はその最も象徴的な料理だ。
海からの近距離で食べる。
氷や冷蔵物流で運ぶ。
酢締めや昆布締めで状態を整える。
こうした技術によって、魚は生で食べられるようになった。
同時に、包丁の技術で骨を避ける。
刺身とは
鮮度を最大限に活かし、骨を取り除き、水分の多い身をそのまま味わう料理
と言える。
魚の魅力であるみずみずしさを、最も直接的に味わう方法だ。
焼き魚は水分を飛ばす料理
一方で焼き魚は、まったく違う方向に進んだ。
火を通すことで水分を飛ばし、
旨みを凝縮する。
刺身ほどの鮮度を前提としなくても成立する。
焼くことで日持ちもわずかに伸びる。
干物はその典型だ。
小魚なら骨ごと食べる。
中型魚なら骨を箸で避けながら食べる。
焼き魚は
水分を減らして旨みを味わう料理
と言える。
天ぷらはその中間にある
では天ぷらはどうだろう。
天ぷらは揚げ料理だが、
料理構造を見ると少し特徴がある。
衣が水分を閉じ込めるため、
内部では蒸しに近い状態が生まれる。
外は香ばしく、
中はみずみずしい。
つまり天ぷらは
焼き魚の香ばしさと、刺身に近い水分感を両立する料理
とも言える。
鮮度の良い魚を使い、
骨は下処理で整え、
水分は逃がさない。
魚の特徴をうまく活かした料理だ。
それでも揚げ魚は主役にならなかった
江戸では天ぷらは人気料理だった。
魚介を揚げる文化は確かに存在していた。
それでも、日本の魚料理の中心は
刺身
焼き魚
だった。
理由はいくつか考えられる。
油は長く高価で扱いにくい食材だったこと。
そして、日本では魚はまず刺身で食べるという文化が強かったこと。
これらは断定できる事実というより、料理文化から見た一つの推論ではある。
ただ少なくとも、日本の魚料理の中心に刺身と焼き魚があったことは間違いない。
魚にはもう一つの特徴がある
魚にはもう一つ、大きな特徴がある。
多様性である。
魚は種類が多い。
小魚
中型魚
大型魚
骨の多い魚もあれば、
フィレに向く魚もある。
脂の多い魚もいれば、
淡白な魚もいる。
この多様さは、料理の可能性でもある。
刺身や焼き魚だけでは、
使いきれないほどの幅がある。
天ぷらの先にあるもの
天ぷらは、日本の揚げ魚の一つの完成形と言えるだろう。
ただ、その世界は職人料理として独自の高みに進んだ。
しかし魚を揚げる料理は、天ぷらだけではない。
丸揚げ
唐揚げ
フライ
骨は避けるだけでなく、
骨ごと食べる方法もある。
魚の多様さを考えると、
揚げ魚の世界にはまだ多くの可能性が残されている。